地球から約12光年先。宇宙の距離でいえば、ほとんどご近所と言っていい場所に、その惑星はある。木星の7倍以上も重い、巨大なガス惑星だ。

なのに不思議な話で、これまで系外惑星(太陽以外の恒星をまわる惑星)の大半は、こんなに近くにあっても写真には写らなかった。存在は分かる。でも姿は見えない。

ところがこの惑星は、姿そのものが直接とらえられた。決め手になったのは、惑星が「冷たくて暗い」ことだった。

可視光では恒星の光に埋もれる惑星が、赤外線では自分の熱で浮かび上がる

「点にすら写らない」のが、系外惑星の普通

これまでに見つかった系外惑星は数千個にのぼる。ところが、そのほとんどは「写真」では確認されていない。

ちなみに約12光年という距離は、宇宙では本当に近い。太陽の光は地球まで約8分で届くが、次に近い恒星までは光の速さでも4年ほどかかる。その物差しで見れば、12光年は「すぐ隣町」くらいの感覚だ。

どうやって見つけているかというと、大半は間接的な方法だ。惑星が恒星の前を横切ると、恒星の光がほんのわずか暗くなる。その明るさの目減りを測るのがトランジット法。あるいは、惑星の重力に引かれて恒星がごくわずかに揺れる、その揺れを測るのが視線速度法。

どちらも「そこに惑星がある」ことは高い精度で言い当てる。でも、惑星そのものの姿は写っていない。恒星のふるまいから、居るはずだと逆算しているだけなのだ。

直接その姿が撮られた惑星は、今のところ全体のごく一部にすぎない。しかもその多くは、生まれたばかりで高温のため自分から明るく光っている、若い巨大惑星だった。冷えて落ち着いた惑星を写すのは、それよりもずっと難しい。

白状すると、私は長いこと「系外惑星の発見」と聞いて、望遠鏡が惑星をとらえた写真を思い浮かべていた。実際はほぼ全部、グラフの上の小さなへこみや揺れだった。

では、なぜ姿が写らないのか。近くにあっても、である。

まぶしさの壁 ── 恒星と惑星の「明るさの差」

理由はシンプルで、恒星がまぶしすぎるからだ。

恒星は自分で光っている。いっぽう惑星の多くは、その光を反射しているだけ。可視光で比べると、太陽と地球のような組み合わせでは、明るさの差はおよそ100億倍にもなる。

100億倍と言われてもピンとこない。身近な例に置き換えてみよう。夜、車のヘッドライトの真ん前に人が立っていても、写真には白く飛んだ光しか写らず、人の顔は闇に沈む。あれと同じことが、桁違いのスケールで起きている。

サーチライトの真横で、ホタルが一匹光っている。それを何光年も離れた場所から撮ろうとするようなものだ。ホタルの光は、サーチライトのにじみに完全に飲み込まれてしまう。

可視光では恒星と惑星の明るさが100億倍離れ、赤外線ではその差が縮む

つまり惑星が見えない最大の壁は、距離そのものより「恒星との明るさの差」なのだ。ならば、この差をどうやって縮めるか。ここからが本題で、個人的に一番おもしろい部分だ。

冷たくて暗い、が武器になる

カギは、見る光を変えることにある。

私たちの目に見える可視光をあきらめて、赤外線(熱として感じる、目には見えない光)で見る。すると景色が一変する。

どんな物体も、冷たくても自分の温度に応じた光を出している。人の体が赤外線カメラに白く写るのと同じ理屈だ。冷たいガス惑星も、恒星の光を待たずに、自分の熱で赤外線をぼんやり放っている。

ここで「冷たくて暗い」ことが効いてくる。可視光ではただ見えにくいだけの弱点だが、赤外線という土俵に持ち込むと、恒星と惑星の明るさの差がぐっと縮む。惑星は自分で光り、恒星は相対的におとなしくなるからだ。

もうひとつ、望遠鏡側の工夫もいる。まぶしい恒星の光を人工的にさえぎる仕組みを使い、そのすぐ脇に残った弱い光を拾い上げるのだ。

この惑星、エプシロン・インディAb(インディアン座の恒星をまわる惑星)を撮ったのが、JWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)の中間赤外線装置MIRIだった。マックス・プランク天文学研究所のエリザベス・マシューズ氏らのチームが、2024年に姿をとらえ、2026年4月に詳しい分析を報告している。

観測には、波長11.3マイクロメートルと10.6マイクロメートルという2つの中間赤外線のフィルターが使われた。冷たい惑星がいちばん明るく見える波長を、狙い撃ちしたわけだ。

では、そこまでして撮れた惑星は、いったいどんな星なのか。

撮れた惑星の横顔

研究チームの報告によると、この惑星の質量は木星のおよそ7.6倍。木星自体が地球の300倍以上重いので、とんでもない重量級のガス惑星ということになる。

意外なのは、その温度だ。表面付近の温度はおよそ200〜300ケルビン、摂氏でいうと約マイナス70〜プラス20度と見積もられている。

数字だけ見ると地味だが、よく考えるとこれは驚きだ。木星の7倍以上もある巨大惑星が、地球の真冬から春先くらいの温度帯にいる。直接撮像でとらえられた惑星としては、際立って冷たい部類だと研究チームは述べている。

軌道も遠い。恒星からの距離は、太陽と木星の間隔のおよそ4倍とされる。太陽系に置き換えるなら、天王星のあたりを大きくまわっているイメージに近い。恒星から遠く離れているからこそ、望遠鏡で恒星と惑星を「別々の点」として引き離せた、という事情もある。

7.6木星質量・約マイナス70〜20度・木星の4倍の軌道という惑星の横顔

ここで少し想像してみてほしい。もしあなたがこの惑星の上空に浮かんでいたら、主星は空にまぶしい一点として輝くだけで、あたりは薄暗く凍えるほど寒い。太陽のようにあたりを照らす存在ではなく、遠くの街灯のような光だ。

その薄暗さこそが、遠く離れた地球から姿を撮れた理由でもある。皮肉な話だと思う。

点ではなく「姿」を撮る意味

では、そこまでこだわって姿を直接撮ることに、どんな意味があるのか。

間接的な方法では、惑星の大きさや重さ、公転周期は分かる。でも、その光を直接つかまえているわけではない。いっぽう直接撮像では、惑星そのものが放つ光を手にできる。

光さえ手に入れば、それを波長ごとに分解して(分光という)、大気に何が含まれているか、どんな温度なのかを直接調べられる。恒星のふるまいから逆算するのではなく、惑星本人から話を聞くようなものだ。

大気の成分が分かれば、その惑星に雲があるのか、どんなガスに包まれているのかといった「顔つき」まで見えてくる。存在の証拠だった惑星が、性格を持った一つの世界として立ち上がってくるわけだ。

研究チームは、今回のような冷たく離れた惑星をていねいに撮り分ける手法が、将来もっと小さな惑星を直接調べる足がかりになると考えている。いきなり地球のような星を撮るのは難しいが、まず「撮りやすい冷たい巨大惑星」で技術を磨いているところ、という位置づけだ。

間接検出はグラフを、直接撮像は惑星の光そのものを手にする

撮れる惑星の条件を、逆から見ると

ここまでを裏返すと、直接写真に撮れる惑星の条件が見えてくる。恒星とのまぶしさの差が小さいこと。恒星から十分に離れて別々の点として見分けられること。そして、赤外線で自分の光を放つ、冷たくて大きな体を持っていること。

言い換えれば、恒星に近すぎず、熱くなりすぎない場所にいる惑星こそ、姿を写しやすい。「明るい主役の隣にいる暗い脇役ほど、かえって撮りやすい」。宇宙の写真には、そんな不思議な逆転がある。

今夜、街灯のまぶしい光の下を歩くとき、その光のにじみに飲み込まれた足元の暗がりを、ちょっとだけ思い出してみてほしい。約12光年先で、まさにその暗がりの側に立っていた冷たい巨大惑星が、暗いからこそ人類のカメラに初めて姿を残したのだ。