南極のボストーク基地で観測された地球の最低気温は、-89.2℃。人が立っていられる限界のような寒さだ。ところが82光年ほど先で、それとほぼ同じ冷たさで回り続けている惑星が見つかった。平均で約-87℃。

しかもその惑星は、木星よりずっと大きい。

そしてもっと妙なのは、その惑星がすぐ隣にある「星」のことだ。相手は燃え尽きた星の残骸、白色矮星(はくしょくわいせい)である。惑星は死んだ星のそばに寄り添うように、たった1.4日で一周している。

観測史上最低気温と、ほぼ同じ冷たさ

この惑星の名前は WD 1856+534 b。研究チームがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で測った平均気温は、約186K。ケルビンという単位は0℃を273.15Kと数えるので、摂氏に直すとおよそ-87℃になる。

数字だけ見ると、ただ寒いだけに思える。でも並べてみると場所がわかる。家庭用の冷凍庫が-18℃、ドライアイスが-78.5℃。この惑星はそのどちらよりも冷たく、地球で人類が記録した最低気温にあと数度まで迫っている。

家庭用冷凍庫やドライアイスと並べると、この惑星の-87℃が地球の観測史上最低気温にほぼ並ぶことがわかる棒グラフ

研究チームは、これを「直接その光をとらえた系外惑星のなかで、これまで最も冷たい」ものだと報告している。系外惑星(太陽系の外にある惑星)そのものを直接見るのは、そもそも難しい。多くは、星の前を横切ったときのわずかな影として間接的に存在が知られるだけだ。

その惑星の「熱の光」を直接拾い、温度まで測れた。それがこの発見の芯にある。

では、なぜこんなに冷たいのか。惑星は星のすぐ隣を回っているのに。

隣にあるのは、光る星ではなく星の燃えかす

答えは、隣にいる相手が「ふつうの星」ではないことにある。

太陽のような星は、一生の最後に外側のガスを吹き飛ばし、中心にあった芯だけが残る。この芯が白色矮星だ。核融合という発電をやめ、余熱でぼんやり光りながら、何十億年もかけてゆっくり冷えていく。言ってみれば、消したばかりの炭のような存在である。

大きさもすさまじく変わる。白色矮星は、太陽ほどの重さを持ちながら、地球くらいの大きさまで縮んでいる。中身の詰まり方は想像を超えていて、その物質を角砂糖ひとつ分すくってきたら、重さは約1トンになる計算だ。軽トラックが角砂糖に化けたようなものだ。

やや細かい話になるが、ここを飛ばすと後で効いてこない。白色矮星は小さく、しかも冷えかけている。だから届く光も熱も、生きている星に比べればずっと弱い。すぐ隣を回っていても、惑星は温まりきらないのだ。

太陽の身にも、いつか同じことが起きる。いまから50億年ほど先、太陽もふくらんで外層を失い、白色矮星として静かに冷えていくと考えられている。この惑星は、その遠い未来の縮図でもある。

近さのわりに冷たい理由はわかった。だが、そもそもなぜこんなに近いのか。

木星より大きいのに、水星よりずっと内側

この惑星は木星より重い。研究チームの見積もりでは、質量は木星のおよそ5倍、大きく見積もっても6倍を超えない範囲にある。れっきとした巨大ガス惑星だ。

その巨体が、白色矮星から0.02天文単位という距離を回っている。1天文単位は太陽から地球までの距離だから、その50分の1しかない。太陽系でいちばん内側の水星ですら太陽から0.39天文単位離れているので、この惑星は水星よりはるかに内側にいることになる。

太陽系の水星と比べると、木星級のこの惑星が中心の星のすぐそばを1.4日で回っていることがわかる軌道の対比図

近いから、一周も速い。水星が太陽を一周するのに88日かかるのに対し、この惑星はわずか1.4日で回りきる。地球でいえば、金曜に見送った相手が日曜にはもう帰ってきているようなテンポだ。

大きくて、近くて、速い。ここまでなら「変わった惑星もあるものだ」で済む。問題は、その近さが物理的にありえないはずの近さだ、という点にある。

本来なら、とっくに飲み込まれていた

白色矮星になる前、この星は赤色巨星という段階を通っている。年老いた星がぶくぶくと膨らみ、もとの何十倍もの大きさになる時期だ。

このとき星の表面は、いまこの惑星が回っている場所よりずっと外側まで広がっていたはずだ。つまり惑星が今の軌道にずっと居たのなら、赤色巨星の時代に星の中へ飲み込まれ、消えていなければおかしい。

赤色巨星の時代には星が惑星の位置まで膨らんでいたため、惑星は星の死後に内側へ移動してきたと考えられることを示す3段階の図

にもかかわらず、惑星は無傷でそこにいる。研究チームはこの一帯を白色矮星の「禁じられた領域」と呼び、その中で無事に確認された最初の惑星だとしている。生き延びたというより、生き延びられないはずの場所にいる、という言い方のほうが近い。

ではどうやって、と当然なる。有力視されているのは、この惑星はもともと遠くを回っていて、星が死んだあとに何らかの力ではじき出され、内側へ移ってきた、という筋書きだ。星の最期の混乱が、惑星を安全圏から燃えかすのすぐ隣へ運んだ、というわけである。

研究者たちも、最初はこの近さをすんなり信じたわけではないらしい。だからこそ、直接その光と温度をつかまえる意味があった。

JWSTが拾った、かすかな熱の光

この惑星は2020年、白色矮星の前を横切る影として最初に見つかった。星の手前を通るたびに光がわずかに弱まる、その周期的な瞬きから存在が知られた。ただしそれは「そこに何かがある」までしか教えてくれない。

温度を測るには、惑星自身が出す熱の光をとらえる必要がある。そこで使われたのが、JWSTの中間赤外線装置MIRI(ミリ)だ。冷たい天体がかすかに放つ赤外線をつかまえるのが得意な観測装置である。

ここからが本題で、個人的には一番好きな部分だ。冷たい天体ほど、出す光は弱く、波長も長い赤外線に寄る。-87℃という冷たさは、これまで直接光をとらえるには冷たすぎる領域だった。そのぎりぎりの光を、MIRIは確かな信号として拾い上げた。

観測から得られた熱の量を手がかりに、研究チームは平均気温を約186Kと割り出した。惑星の影という間接的な発見が、5年越しで「本物の惑星が、この温度で、ここにある」という直接の確認に変わった瞬間だった。

死んだ星のまわりにも、世界は残る

星が燃え尽きたら、そのまわりは何もない墓場になる——なんとなく、そう思っていた人は多いはずだ。この惑星は、その思い込みを静かに崩す。

もしあなたがこの惑星の分厚いガスの上に浮かべたとしたら、空に見えるのはまぶしい太陽ではない。地球ほどの大きさに縮んだ白い点が、弱い光を投げかけているだけだ。その光を浴びながら、あなたは1.4日で空を一周する。あたりはずっと-87℃のまま、静かに回り続ける。

星の死は終わりではなく、そのあとにも惑星は残り、動き、こうして人類の望遠鏡に見つかる。50億年後、太陽が同じ道をたどったあとの空にも、きっと何かが回っているのだろう。その一つ目の実例が、82光年先で見つかったばかりだ。