「では、四十年前、街に落ちてくる石をそらしたときのことを、ご自分の言葉で」
若い記者が、録音の赤いボタンを押した。ミサキさん、とかいう名前だったと思う。わたしの倍は元気がいい。
石をそらした英雄。そう呼ばれるたび、正直、背中が冷える。
あれは四十年前だ。この街の空へ、ピラミッド大のでかい石がまっすぐ落ちてきた。わたしは探査機を一発ぶつけ、その軌道をちょいと横へずらした。それだけで街いちばんの英雄になった。なった、というより、されてしまった。
「狙いは、石の進む時間を七十秒ずらすことでした。でも実際は三十二分。成功ラインの二十五倍です。まさに神業――」
「神業なんかじゃない」
つい口が出た。ミサキさんがぱっと顔を上げる。しまった、と思ったがもう遅い。
おかしいのだ、ずっと。あんな弱い当て方で、石があそこまで動くわけがない。数字を見た夜、うれしいより先に「効きすぎでは」とつぶやいた。腕じゃない。何かが、わたしの知らないところで、いっしょに石を押したにちがいない。それが何なのか、四十年、確かめたくてたまらなかった。
「だから探査機を、もう一機あの石まで行かせた。傷あとを測りにな」
「はい、そのデータがきょう届くんです。だから記念式で」
式なんてどうでもいい。行きも帰りも何年もかかる答え合わせが、きょう、ようやく帰ってくる。
会場のスクリーンに、ざらついた石の写真が出た。わたしは息を止めて、報告の文字を追った。
――標的は固い岩ではなく、もろい石の寄せ集めだった。弱い衝突で表面が砕け、破片が反対側へ噴き出した。その反動で、本体は想定をはるかに超えて動いた。
やっぱりだ。腕ではない。石がぼろかっただけだ。わたしはたまたま、蹴ればくずれる砂の山を蹴っただけだった。四十年こわがってきた答えが、いちばん間抜けな形で出た。
わたしは立ち上がった。
「ミサキさん、聞いてくれ。わたしは名人じゃない。当て方はへただった。石がもろかったから、勝手にくずれて、勝手に動いた。運だよ、ぜんぶ運だ」
言い切った。四十年ぶんの荷が、やっと肩から下りた気がした。
ミサキさんはしばらくぽかんとして、それからノートに何か書きつけ、こちらへ向けた。
「見出し、これでいきます。――『砕けやすい石を見抜いた慧眼、英雄の四十年』」
「いや、そうじゃなくて」
「わかります。ご謙遜も、英雄の条件ですもんね!」
市長がにこにこと壇上へ来て、「クロダさん、おめでとう!」と金ぴかの押しボタンの模型をわたしに握らせた。本物の二十五倍は重い。
スクリーンの報告には、まだ続きがあった。だれも読んでいない小さな字で、こうある。砕けた破片は、いま群れになって、ゆっくり別のどこかへ広がりつつある――と。
あれをまた、だれかが確かめに行くのだろう。何十年もかけて。わたしは重いボタンを抱えたまま、破片の散っていった空を見上げた。拍手だけが、いつまでも鳴っていた。