仲人のヤナギ婆さんが、一枚の写真を茶の間にすべらせた。
「どうだい、この娘。むこうの星でも、ちょっとした器量よしでね」
カン次はのぞきこんで、思わず声をあげた。写真の娘は、頬がふっくらして、目もとがやさしくて、まだ娘ともいえぬくらい若い。
「こりゃあ……べっぴんだ」
「だろう」
「会いたい。今すぐ、会いにいく」
「まあ、落ちつきな」婆さんは茶をずずっとすすった。「むこうは、うんと遠い星だよ。この写真が届くだけでも、何年もかかってるんだ。会いにいくにも、また何年もかかる」
「かまうもんか」
カン次はその晩のうちに荷をまとめ、船に乗りこんだ。写真を胸にしまって、やたらと鼻歌が出た。ふっくらした頬のことばかり考えていたら、長い長い道のりも、ちっとも苦にならない。
見送る婆さんが、背中に声をかけた。
「カン次や。くれぐれも、がっかりしなさんなよ」
「するもんか。あんなべっぴんに」
カン次は手だけ振って、ふり向きもしなかった。
やがて船は、遠い星に着いた。
教わった番地をたずね、古びた戸口の前に立つ。胸の写真をもう一度のぞいて、えへん、と咳ばらいをして、戸を叩いた。
「ごめんください。カン次と申します。お見合いの、お話で――」
戸が、きい、と開いた。
出てきたのは、腰のまがった、しらがの女だった。目のまわりに、ふかいしわが幾すじも寄っている。
カン次は、口をあけたまま固まった。写真の娘は、どこにもいない。
(こりゃあ、話がちがう)
がっかりして、つい後ずさりかけたそのとき。
女のほうも、カン次の顔を見て、ひっ、と息をのんだ。手にしていた一枚を、カン次の顔とくらべて、くらべて、へなへなと框にしゃがみこむ。
「あんた……この写真の、若い衆じゃ、ないね」
「は……?」
ふるえる手に握られていたのは、見おぼえのある男の写真だった。髪の黒々とした、まだ二十歳そこそこの――ずっと昔の、カン次だ。
そこでようやく、カン次は合点がいった。
自分がむかし送った見合い写真も、何年もかけて、やっとこの星へ届いたのだ。着いたころには、写真のなかの若い自分は、もうどこにもいない。女が会うのを楽しみにしていたのは、昔の自分。そっくり、おあいこだったというわけだ。
「……惚れた相手が、ふたりとも、昔にいっちまいましたな」
カン次が頭をかくと、女はしわくちゃの顔で、ぷっと噴きだした。つられてカン次も笑った。ふたりして、戸口で、しばらく笑いころげた。
「茶でも、どうだね」
「いただきます」
連れだって、とぼとぼと、通りの茶屋のほうへ歩いていく。写真の若いふたりよりも、よほど似合いの、年のころだった。