母さんね、となりの吉田さんに教わったのよ。宇宙で働く子の、心ぞうの音が、地球からでも見られるアプリがあるって。
うちのハルキはね、ずいぶん遠くの基地にいるの。月より、ずっと向こう。正しい名前は、母さんいまだに覚えられないんだけどね。
吉田さんの息子さんもおなじ所でね、「お母さん、これ入れときなさい」って。向こうの人が仕事中につけてる、心ぞうを記録する機械。身内なら、その線が地球からでも見えるんですって。便利な世の中。母さん、さっそく入れたわ。
画面にね、小さな山がちょこちょこ動くの。それがハルキの心ぞう。生きてるのねえって、最初は泣きそうになったわよ、ほんとに。
ところが、ある晩。
山が、ぴょんと高くなってね。あら、と思ったの。これは——恋ね。母さんにはわかるの。独りもんの男の子の心ぞうが跳ねるのは、だいたい恋。すぐに知り合いへ電話して、ちょうどいいお嬢さんの話を三件、ハルキに送っといたわ。
そうしたら次の朝、また跳ねたでしょう。
恋どころじゃない、熱かもしれない。母さん心配で、おかゆの作り方と、のどの薬を送る手配をしたの。向こうに届くのに四日かかるけど、ないよりましよ。
それからというもの、不思議でねえ。母さんが見合い写真を送った次の朝は、きまって山が高いの。薬を送れば、また高い。ハルキったら、よっぽど元気なのねえ。あんまり跳ねるもんだから、写真を九人分と、血圧の薬と、厄よけのお札まで送ったわ。
返事? ほとんど来やしない。「元気」の二文字が、月に一度くるくらい。でもね、あの線を見てると、母さん、ちゃんとそばにいる気がするの。どんなに遠くたって、あの子の心ぞうだけは、ずっとこっちを向いてるんだもの。
ところが、ゆうべ。
山が、ぴたっとおとなしくなったの。あんなに跳ねてたのが、うそみたいに、すうっと平ら。
母さん、しばらく画面を見てたわ。そうして、ほっとしたの。
よかった。やっと落ち着いたのね。きっと、いいお嬢さんが見つかったか、体がよくなったのよ。母さんの送ったもの、ちゃんと効いたんだわ。
そういえば、ゆうべハルキから、めずらしく返事が来てたの。三文字だけ。
「通知、切った」
……なんの通知かしらねえ。ともあれ、あの子が落ち着いたんだもの。母さんね、さっそくお祝いの赤飯を炊く手配をしたわ。きっと、いいことがあったのよ。