父の働く星は、一年がひと月で終わる。公転がうんと速いせいだ。だから地球で娘が一つ歳をとるあいだに、父は書類の上で十二も数字を越していく。

二人のあいだには、ひとつだけ約束があった。娘の誕生日に、かならず電話する。それだけ。

最初の数年は、なんの問題もなかった。

〔通話・一年目〕 「ハナ、誕生日おめでとう」 「お父さん、声おそーい」 「電波が遠いんだよ。八歳か。早いなあ」

ところが父の星のこよみは、地球のこよみとだんだんずれていった。向こうの「来月」が、こっちの「来年」だったりする。父は自分の暦のどこが娘の誕生日にあたるのか、しだいに分からなくなった。

〔メッセージ〕 父「すまん、きょうそっちの誕生日だったか?」 ハナ「三日前。でも気にしないで」 父「来年は手帳に赤丸つけとく」

その赤丸も、父の星ではひと月で一周してしまう。

そこでハナは考えた。父を待つのをやめて、自分から父の暦に合わせることにしたのだ。父の星の時計をスマホに入れ、向こうの「月はじめ」にこっちから電話をかける。父の都合のいい日に、娘のほうが祝う側へ回ったわけである。

〔通話〕 「お父さん、あけましておめでとう。そっちの」 「おお、律儀だなあハナは。もう正月か、こっちは」 「お父さんの一年、はやいね」 「はやいよ。歳ばっかりとる」

一方の父も、父で考えていた。

娘の誕生日だけは、何があっても外したくない。父は職場にかけあって、自分の暮らしを地球の時間に合わせてもらうことにした。速い暦は仕事のときだけ使い、部屋には地球のカレンダーを貼った。娘の誕生日に、赤いペンで、太い丸を。

〔メッセージ〕 父「今年からは絶対まちがえないぞ。地球時間で暮らすことにした」

既読。その日、返信はなかった。

その秋。地球の秋のことだが、ハナのスマホがふいに鳴った。予定にない、父からの電話だった。

〔通話〕 「あ、お父さん。どうしたの、きょう何もない日だよ」 「いや……そっちこそ、なんで出た。きょうは誕生日でもなんでもないだろ」 「うん。なんとなく。お父さんの暦だと、きょう何日?」 「……待て。おれ、地球のカレンダー見てた。ええと、そっちの暦だと——」

二人は黙った。

父の部屋には、地球のカレンダー。ハナのスマホには、父の星の時計。たがいに相手の暦へ引っ越したせいで、二人の「特別な日」は、また、きれいにすれ違っていたのだった。

「お父さん」 「ん」 「きょうって、どっちの星のカレンダーにも、なんにもない日だね」 「……ないな。まっさらだ」 「じゃあ、ここにしよう」

ハナはスマホのカレンダーの、今日のところを長押しした。父は赤いペンのキャップを、口でくわえて抜いた。どちらの星のものでもない、まっさらな今日に、二人はそれぞれ丸をつける。

「うちの日、な」 「うん。うちの日」