ぼくの口ぐせは「また明日」だ。皿洗いも、電球の交換も、山になった請求書も、ぜんぶ明日のぼくに押しつける。明日のぼくは働き者だから、心配いらない。

そう思って気楽に暮らしていたのに、ある朝、太陽が動かなくなった。

「ねえ、聞いた? 星の自転、とまったんだって」と、隣のヤマさんが塀ごしに言った。「どっかの装置が壊れたとかで、ずっと昼のまんまよ」

自転がとまれば、太陽は空の同じ場所に貼りついたきり。つまり、この星にはもう夜が来ない。

最初は、へえ、で済ませた。ところが三日たっても空は青いままで、ぼくはようやく気づいた。

夜が来ない。ということは――朝も来ない。「明日」が、永久に来ない。

背筋が凍った。明日のぼくに頼んでおいた用事が、いっせいに「いまのぼく」へなだれこんできたのだ。皿、電球、請求書、年賀状、歯医者の予約。ぜんぶ、いま。ぜんぶ、ぼく。

生まれて初めて、汗だくで働いた。皿を洗い、電球を替え、封筒を破く。それでも終わらない。太陽はずっと空の上から、意地悪く見張っている。

四日目、ぼくは発明した。

物干し竿に、ぶあつい毛布を引っかける。窓をふさぐ。部屋がすうっと暗くなる。

「はい、夜」

ぼくは宣言して、布団にもぐった。ぐっすり眠って、起きて、毛布をはがす。まぶしい光がなだれこむ。

「はい、朝。――で、きょうの用事は、また明日ね」

明日が、戻ってきた。

この裏ワザは、あっというまに丘じゅうに広まった。ヤマさんが毛布を買い、向かいのおばさんが買い、そのまた隣が買った。ぼくらはみんな、根っからの先延ばし体質だったのだ。

いま、この丘では妙なことが起きる。

だれも声などかけ合わないのに、太陽がいちばん高くなるころ、家という家がいっせいに窓をふさぐ。丘がすとんと暗くなる。めいめいの「また明日」が、一日分ずつ生まれる。

きのう、金物屋でヤマさんと並んだ。彼は毛布を二枚、かごに入れた。

「一枚じゃ足りんでな。あしたのぶんも、いるで」

ぼくも、だまって三枚とった。