父は死ぬまで、塔の模型を作っていた。
割りばしみたいな細い棒を、のりでつぎ足しては、少しずつ高くしていく。ただそれだけのことなのに、ある高さをこえると、塔はきまってどちらかへ、すうっとかたむいた。そして、ぱたり。
「また倒れた」
母がお茶を運んでいくと、父はいつも、散らばった棒をながめて、にやにやしていた。
「あと少しだったんだがなあ」
「もう三十年、あと少しで倒してるでしょう」
母はあきれて、茶わんを置いて帰る。それが、ふたりの毎晩だった。
父が亡くなって、倒れかけの塔だけが、居間のすみに残った。
息子は、宇宙ステーションで働いている。葬式のあと、その塔をそっと箱にしまいながら、持って上がると言った。
「そんなもの、持っていってどうするの」
「さあ。でも、置いとくと母さん、毎日ながめて泣くでしょ」
母は、何も言い返せなかった。
一週間して、息子から画像が届いた。
母は画面を見たまま、しばらく、息をするのを忘れた。
塔が、立っていた。
棒は一本も足していない。あの倒れかけの塔が、どこにもかたむかず、すうっと、まっすぐ立っている。指一本ぶんも、傾いていない。
「上も下もない所だからね」おくれて、息子の声が届く。「重さがないと、自分のおもみでかたむかないんだ。父さんの塔、ここでならいくらでも高くできるよ」
母は、手の中の茶わんを、そっと置いた。
父が、よく言っていた言葉がある。
——いつか、ちゃんと立つところへ持ってってやるからな。
母はずっと、できあがったら飾る場所のことだと思っていた。ちがったのだ。あの人は、できあがらせる場所のほうを、さがしていた。この地べたには、はじめからなかった場所を。
次の春、母は生まれて初めて、打ち上げの座席にすわった。
しわの手が、なれないベルトを、かちりと留める。となりの係の人が、「こわくないですか」とのぞきこんだ。
「ええ。うちのがね、三十年がかりでこしらえた見ものが、上にあるんですよ」
母は、しゃんと背を伸ばして、前を向いた。