見張り当番日誌 ホタ

二十時。異常なし。空は、しずか。あちらの「まばたき星」も、いつもどおり、ゆっくり回っている。正直、退屈だ。 おれはこの村で三年、夜番をやってきた。よその星から舟で渡ってくる旅の人を、村でいちばんに見つける仕事だ。見つけた村が、その人を泊める。 舟は光らない。まばたき星の前を横切る一瞬、星がかげる。それだけが知らせだ。 なのに、おれは一度も見つけたことがない。かげで、みんなに「見えない当番」と呼ばれているらしい。今夜こそ、と毎晩思う。

二十二時十四分。まばたき星の光が、ふっと、かげった。気のせいか。

二十二時二十四分。また、かげった。十分きっかり。 何かが、あの星の前を横切っている。空の奥から、こっちへ来る舟だ。ついに——ついに、おれの晩が来た。

二十二時二十五分。至急。〈旅の人あり〉。 知らせの明かりを三度点して、となり村へ送る。それから、ザラ婆さんを起こしに走った。

二十三時。村じゅうが起きた。婆さんは釜に湯をわかし、みんなは門のちりを払う。おれは日誌に、旅の人の名を書く欄まで用意した。手が、ふるえていた。

二十三時四十分。ザラ婆さんが、汁物を一気に飲み干してから、窓の外をしばらく見て、言った。 「ホタ。舟なら、通り過ぎるもんだよ」 「え」 「あれ、さっきから、おんなじ頬に戻ってきてる。十分ごとに、おんなじ場所さ。……舟じゃない。あの星の、ほくろだよ。ぐるっと回って、こっち向くたびに、かげって見えるだけ」 星の染みだった。三年待ったおれの旅の人は、あちらの頬の、消えない一点だった。

二十三時四十五分。訂正を書く。〈旅の人なし。星の染みにつき〉。明かりを、今度は二度、点した。

——ところが。 となり村の見張り窓が、もう明るい。その先の窓も、点いた。〈旅の人あり〉が、窓をひとつずつ明るくしながら、空の奥へ転がっていく。 おれの訂正は、まだ、となりの星にも届いていない。報せも訂正も、同じ道を、同じ速さで進むのだ。追いつく日は、来ない。

二十四時。所見。 おれは今夜、村じゅうに旅の人を見つけさせた。いもしない旅の人を。 空の奥では、まだ見ぬ村々が、ひとつずつ、湯をわかしはじめている。