「ねえ、なんで開けないの」  マキがそう食ってかかるのも、これで何度目だろう。戸棚には、開けていない筒が七本、古い順に埃をかぶってならんでいる。遠い星へ移った息子のノブから、何十年もかけて、やっと届きはじめた声の筒だ。  この町では、遠くの家族へ声を送るのに筒便を使う。声を吹きこんだ筒を、ゆっくり進む光の舟に乗せるのだ。ただしこの舟、片道で人ひとりの一生ぶんかかる。送った本人に返事が返ることは、まず間に合わない。届くころには、たいてい送り主はこの世にいない。  だから町の人は、遠くの家族に「答え」を聞かない。かわりに「当てっこ」をする。あの子は今ごろ何をして、どんな顔で笑っているか。それを当てて、筒に吹きこんで送るのだ。もっとも、当たっていたかどうかは、当てた本人には一生わからない。だからこそ、みんな存外に本気だった。ちなみに、この筒便の宛名は、届くのに時間がかかりすぎて、これまで三度も書き方が変わったらしい。  マキには、それがどうにもまどろっこしい。 「せっかく届いてるのに。開ければ、当たってたか分かるじゃん。答え合わせ、できるでしょ」 「開けたら、終わっちまうだろ」  ハツ婆さんは、ぬか床をかき混ぜる手を止めない。 「終わりって、なにが」 「当てっこがさ」  さっぱりだった。当たってるか分からない当てっこなんて、意味がない。そう思う。その晩、婆さんが寝たあと、マキは戸棚から一番新しい筒をそっと抜いた。一本くらい、ばれやしないだろう。蓋をひねると、古い光がほろりとこぼれて、ノブの声が立ちのぼった。  てっきり、こちらの当てへの返事だと思っていた。ところが、ちがった。 「母さんは今ごろ、まだ毎朝あのぬか床を触ってるだろう。指の匂いを嗅いで、しょっぱい、って顔をしてるはずだ」  返事では、なかった。ノブもまた、答えではなく、当てを送ってきていたのだ。星のむこうのこちらを当てて、筒に詰めて。しかも、とマキはふと台所を振り返る。ぬか床の甕。婆さんの、しょっぱいと言いたげなあの顔。当たっている。何十年も昔の声のくせに、なんとも、当たっている。  どちらも、答えは送らないのだった。一生届かないと知っているから、答えではなく、当てだけを送り合う。だから答え合わせは、この先も永遠に来ない。来ないまま、二人はずっと、相手を読み当てつづける。  マキは、開けかけた筒の蓋をそっと閉め直した。もとの列に、そっともどす。それから空の筒を一本取って、自分の声を吹きこんだ。婆ちゃんは今ごろ、あたしが開けたのに気づいて、にやにやしてるでしょう。そう当てて、送り口の棚に置いた。  翌朝、その筒が一本ふえているのを見て、ハツは何も言わなかった。ただ、ぬか床から指を上げて、しょっぱい、という顔をした。