宇宙で「温度が均一でない」と聞いても、それほど驚かないかもしれない。星はそれぞれ異なる温度を持つし、星雲だって場所によって熱かったり冷たかったりする。

でも、自分が住む銀河そのものの「外層」が、北半球側と南半球側で温度が違う——となると、話は少し変わってくる。

2024年のX線観測データを詳細に解析した研究チームが、その事実を確認した。天の川銀河を包む高温ガスの層(ハロー)は、南側が北側より約12%高温だという。

原因は、天の川銀河のすぐそばを旅する小さな銀河、大マゼラン雲だ。

天の川銀河の非対称なガスの外層(ハロー)

銀河にも「外層」がある

まず、銀河の構造を簡単に整理しておきたい。

天の川銀河というと、多くの人はあの天空を横切る薄い光の帯——つまりディスク(円盤部)——をイメージするはずだ。確かにそれが銀河の主要部分で、太陽を含む数千億個の星が円盤状に集まっている。

ところが銀河はそれだけではない。ディスクの外側に、「ハロー(halo)」と呼ばれる球状のガスの層が広がっている。直径にして60万光年以上。ディスクの幅が約10万光年だから、それよりはるかに大きな領域を取り囲んでいる。

このハローは薄い。密度で言えばディスクの何千分の一以下だ。だからこそ長い間その存在を正確に測ることが難しかった。

それでも近年、特にX線観測技術の進歩により、ハローの温度や分布が少しずつわかり始めた。ガスは数百万度という高温状態にあり、X線を弱く放射している。この放射を捉えることで、「ハローの地図」を描けるようになった。

ハロー温度の南北差

2024年、ドイツとロシアが共同開発したX線観測衛星eROSITA(エロジータ)のデータを分析したグループが、驚くべき非対称性を報告した。天の川銀河のハローは、南半球方向のほうが北半球方向より約12%温度が高い——と。

12%というのは、「わずかな差」に聞こえるかもしれない。しかしスケールを考えてほしい。数十万光年に及ぶ領域全体で、一方向に12%の温度差がある。それが「自然にそうなった」はずがない。何かが起きている。

大マゼラン雲という近隣住人

天の川銀河の近くには、2つの小さな銀河がある。大マゼラン雲と小マゼラン雲だ。南半球から夜空を見ると、雲のような白い輝きとして肉眼で見える。それぞれ約16万光年と約20万光年先にあり、天の川銀河の重力に引きずられながら周回している「衛星銀河」だ。

この2つのうち大きいほう、大マゼラン雲の重力が今回の謎を解く鍵だった。

大マゼラン雲は天の川銀河を引っ張っている。正確には、お互いの重力で引き合っているのだが、大マゼラン雲の質量は天の川銀河の数十分の一にすぎないため、影響は非対称だ。大マゼラン雲は天の川銀河をゆっくりと「自分の方向に引き寄せる」形で、銀河全体を動かしている。

その速さは秒速約40キロメートル。

「それくらい速いのか遅いのか」という感覚はつかみにくいが、宇宙の基準では比較的ゆっくりだ。銀河の移動というのは人間の時間感覚ではまるで認識できない。ただし何千万年、何億年という単位で見れば、銀河全体が確実に動いてきたことになる。

ちなみに大マゼラン雲の質量は、近年の研究で従来の予想よりかなり重いことがわかってきた。太陽の約1,500億倍。天の川銀河の「5分の1から10分の1」程度とされるが、衛星銀河としてはかなり大きな部類だ。この質量があるからこそ、天の川銀河のハローを変形させるだけの重力を持っている。もし大マゼラン雲がもっと軽ければ、温度差はもっと小さかったか、そもそも観測にかからなかっただろう。

大マゼラン雲と天の川銀河の位置関係

ピストンで圧縮される、そのたとえがしっくりくる

天の川銀河が南方向へ移動しているということは——南側のガスが「押しつぶされる側」になるということだ。

研究チームが使ったたとえが、自転車ポンプだ。ピストンを押し込むと、先端にある空気が圧縮されて温度が上がる。その原理が、銀河スケールで起きている。

天の川銀河が大マゼラン雲に引かれて南へ動く。するとハローの南側の薄いガスが、銀河ディスクに「押される」形で少し圧縮される。気体が圧縮されると温度が上がる。それが12%の温度差として観測に現れた——というわけだ。

コンピューターシミュレーションで計算すると、この圧縮効果は南側ハローを約13〜20%加熱するという結果が出た。観測データの12%という数字は、その計算範囲にぴたりと収まっている。

ピストン圧縮のしくみ(銀河スケールで起きていること)

もう一つ興味深いのは、2019年に発表されたシミュレーションが、この非対称性をすでに予測していた点だ。観測のほうがそれより5年遅れで追いついた格好になる。「計算が先に正しい答えを出していたが、測定技術がなかった」というのは宇宙物理学でよく起きるパターンで、理論の面白さと観測技術の重要性を同時に示している。

1億年でできた差

この温度差は、急に生じたわけではない。

シミュレーションによると、南北のハロー温度差が形成されたのは過去1億年以内のことだという。1億年と言うと気が遠くなる長さだが、宇宙の歴史(約138億年)からすれば比較的最近のことだ。

つまり「今この瞬間」、天の川銀河は大マゼラン雲に引かれながら動いており、ハローの南側はじわじわと温められ続けている——という状態にある。変化の途中にいるわけだ。

もっと時間が経てば、どうなるだろう。大マゼラン雲はいずれ天の川銀河に飲み込まれると考えられている。そうなれば引力の方向は変わり、この温度差も解消されるか、あるいは別の形の非対称性が生まれるかもしれない。

宇宙の「今」は、長い変化の一コマにすぎない。

ハローを研究することの意味

ハローの温度分布を調べることが、なぜ重要なのか——と思う人もいるかもしれない。

一つには、ハローは銀河の「材料置き場」と呼べる存在だからだ。ハローには大量のガスが蓄えられており、将来そのガスがディスクに落ちて星になる可能性がある。ハローが熱い側では、ガスが熱すぎて冷えにくく、星形成が抑制されることもある。逆に冷たい側では、ガスが凝縮して星が生まれやすい条件が整う可能性がある。

つまり「ハローの温度分布」は、「この銀河がこれからどんな星を生むか」とつながっているかもしれない話だ。

もう一つは、他の銀河の観測への応用だ。遠くの銀河のハローを観測することで、その銀河がどんな衛星銀河を持っているか、あるいは過去にどんな銀河と相互作用したかを逆算できる可能性がある。温度の非対称性は、銀河の「歴史の証言者」にもなりうる。

私たちは銀河の「非対称な時代」にいる

少し視点を引いて考えると、これはかなり不思議な話だと感じる。

私たちの銀河は、均一には存在していない。南側のハローは北側より熱く、その差は今この瞬間も大きくなり続けている。原因は16万光年先の小さな銀河の重力だ。

しかもその「ずれ」を私たちは地球から観測できた。何十万光年も離れた高温ガスのX線放射を精密に測定し、南北の12%の温度差を検出した。そしてコンピューターシミュレーションでその理由を説明した。

宇宙は均質に見えて、実はどこかを誰かに引っ張られ、非対称に変形しながら存在している。そのことを、自分の銀河を使って実感できたのが今回の発見だ。

正直、「銀河にも片側が熱い」という状態があることを初めて知ったとき、思わず声が出た。スケールが大きすぎて笑ってしまう、という感じに近い。

でも笑いながらも、確かにそうなんだと思う。私たちの銀河は、均等ではない。そして宇宙のほとんどのものも、おそらくそうだ。