返送記録・十二月分(局員控え)
第二〇三号。送り主、水の星の老父。宛先、鉄の星で坑夫をする娘。中身、保存食四十食、綿入れ一枚、お守りひとつ。
「あの子、昔から寒がりでねえ」と、父は窓口でにこにこ笑っていた。「向こうは何もない星だっていうから、ひととおり持たせてやりたくて」
何もない星などない。あるのは距離だ。片道十一年。荷が着くころには、娘の採掘班はとうに別の星へ移っている。鉱山は掘り尽くせば畳む。あて先の星ごと、台帳から消える。
返送理由——宛先消失。送り主の住所も、十一年のあいだに代替わりして、戻せず。 規定第九条。『送り主にも返せぬ品は、局の最寄りの困窮世帯へ回すべし』。手続き済。
第二一〇号。手編みの毛布、三枚。検疫で止まる。判に曰く、「生きた繊維、持込不可」。送り主の星のダニが、毛糸の奥でぬくぬく眠っていたらしい。遠い星には遠い星の虫がいて、混ぜてはいけない決まりだ。宛先消失。規定第九条、手続き済。
第二二四号。乾いた果実、ひと箱。規格違反。星ごとに小包の寸法がちがって、たった一ミリでも、よその星の仕分け棚には載らない。送り返す先もなし。規定第九条、手続き済。
第二五一号。子ども靴、二足。届いてみれば、右足ばかり二つ。送り主が、重力の軽い星と重い星をとり違えて詰めたらしい。どのみち宛先の子は、靴が着くころには足のほうが大きくなっている。規定第九条、手続き済。
こうして十二月の棚は、どこへも行けない善意で埋まっていく。どれも、遠くの誰かのために、ずいぶん考えて詰めてある。考えすぎて、届かない。
第二八〇号。今年、最後の一件。 送り主の欄を読んで、判を持つ手が止まった。
水の星。母の字だった。 宛先は、私の名。鉄の星の、もう無い採掘宿舎。
十一年前、私はあの鉱山を下りた。坑道より静かな仕事がしたかった、とは言えなくて、ただ黙ってこの返送局へ移った。母には新しい住所を教えていない。心配をかけたくなかったのか、ただの見栄か、自分でもわからないままだ。
母は毎年の冬、昔のあて先へ荷を送りつづけている。そのたびに荷は星をいくつもまたいで、宛先消失、で、この机へ戻ってくる。
奥の簡易寝台をふり返る。今年そこに積み上がった、保存食と、毛布と、果実。第二〇三号も、第二一〇号も、第二二四号も。『局の最寄りの困窮世帯へ』——この局の奥で寝起きしている世帯は、ずっと、私ひとりきりだった。
遠くの子のために詰められた荷が、めぐりめぐって、いちばん近くの子を、この冬も暖めていたわけだ。
母の荷を開ける。中身は、綿入れが一枚。昔から、私も寒がりだった。
受取人欄に、奥の寝台の番号を書き入れる。母の字の宛名は、消さずに残しておく。判を押す。
記録を、閉じる。