うちの町の自慢は、来た人がひとりも出ていかないことだ。だからあの朝、見たことのない足取りで若い人がやってきたとき、迎え委員会長のハナ、つまりわたしは、腕が鳴った。

うちの町は、宇宙のすみっこに浮かぶ小さな星の上にある。星はのんびり回っていて、通りかかった人はたいてい、その引きにふわりと捕まる。あとはもう、出ていく気も起きないらしい。もっとも、星の引きはやさしいものだから、のんびり来た人しかつかまえられない。それでも五十年、記録はいっぺんも切れていない。ちょっとした自慢である。

「ハナさん、あれ、どこの子だい」 「さあねえ。えらく、せかせか歩くね」

たしかに速い。この星に来る人は、たいてい引きにつかまって、ゆっくり回りこむように近づいてくる。だがあの子は、まっすぐだった。町のまんなかへ、ぐいぐい来る。わたしはぴんときた。きっと昔この町から出ていった……いや、出ていった人はいないんだった。ともあれ、帰ってきた誰かにちがいない。

「おかえり!」わたしは腕を広げた。「よく帰ってきたねえ。さあさ、あがってあがって」

若い人はちょっと目をまるくして、それから、ぺこりと頭をさげた。

そこからは、腕の見せどころだ。わたしは団子を出し、ゴロさんは自慢の月見酒を出し、ウメ婆さんは孫娘の写真を出した。空き家も一軒、ただで貸すことにした。なにがなんでも居ついてもらう。それがこの町の、いちばんのもてなしなのだ。

若い人は、団子を食べ、酒をなめ、写真をながめ、そのたびに、ていねいに頭をさげた。もっとも、いちども腰は落ち着けなかった。

「ねえ、あんた、どこの生まれだい」わたしはとうとう聞いた。 「……遠くです」若い人は言った。「ずっと、遠く」 「あらまあ。なら、なおさらゆっくりしていきな」 「いえ」若い人は立ちあがった。「わたし、止まれないんです。速すぎて」

そう言うと、若い人はふらりと広場へ出て、盆踊りの輪をひとまわりして——町のむこうへ、来たときよりずっと速く、すうっと飛び出していった。なんだか、あっという間に点になった。

町じゅうが、ぽかんとした。五十年の記録が、切れた。

……わけがない。わたしは会長である。ぽかんとしているわけには、いかないのだ。わたしはせきばらいをして、みんなに言ってやった。

「見たかい、あの速さ。うちの町の見送りが、あんまりみごとだったのさ。あの子はね、うちに背中をぐいと押してもらって、あんなに元気に旅立てたんだよ」

町長はうなずき、その年、わたしに表彰状をくれた。「みごとなお見送り」。いまも公民館の、いちばんいい壁に飾ってある。

もっとも、その朝から、この星の回りは、ほんの半拍だけのろくなった。盆踊りの輪も、おなじだけのろくなった。誰も気づいていない。あの子が、ひとまわりするあいだに、こっそり持っていったのだ。