床屋のトメには、へんな特技があった。

客の髪を切っていると、はらはらと落ちる砂を見ただけで、その人がもとはどこの星の生まれか、ぴたりと当ててしまう。もっとも、当てても口には出さない。ちりとりの砂を色でより分けて、だまって片づけるだけである。ちなみに、トメの見立ては一度も外れたことがない。砂というのは、人よりずっと正直なのだろう。

この町は、空気のない大きな岩の上にある。だから、もとからの土なんてものは、本当は一かけらもない。地面の砂は、みんな、よそから来た人が服や靴につけて運んできたものだ。掃いてみると、星ごとに色がちがう。赤いの、黒いの、白っぽいの。町の道は、遠くの星のかけらでできているわけだ。

さて、その朝の客は、カジという男だった。

カジは、この町に来て四十年になる。若いころにふらりと流れてきて、そのまま居ついた。今ではすっかり町の顔で、あいさつも板についている。ただ、ひとつだけ、どうにも欲しいものがあった。

「三代会」である。

三代前からこの町にいる者だけが入れる、えらそうな寄り合いだ。花見の席次から水道のことまで、町の細かい決めごとは、たいていここで決まる。カジは、なんとしても入りたかった。今日はその顔ぶれに会う日で、地元の古株らしく見えるように、わざわざ髪を整えにきたのだった。

「トメさん。おれ、もう三代くらい、ここにいる気分だよ」 「はいはい」 「なんたって四十年だ。生まれがどこかなんて、とっくに忘れちまった。ここが故郷さ」 「そうかい」

トメは、はさみを動かしながら、ちらりと足もとを見た。

椅子の下に、うすい金色の砂が、ぱらぱらとたまっている。この町のどの道にもない色だった。ずいぶん遠い、乾いた星の砂だ。カジ本人は、とうに忘れているらしい。それでも、えりの内がわや、古い上着の縫い目には、生まれた星の砂が、しっかりこびりついていたのだ。たぶん、その星の名も、もう言えないのではないか。

「なあ、トメさん」カジが、鏡ごしに、そっと言った。「その、おれの砂さ……だれにも、言わないでくれよ」 「言いやしないよ」 「たのむ。今日だけは、地元の生まれってことに、しといてくれ」

トメは、なんとも言えない顔で笑った。それから、あごで店先をさした。

入り口のわきに、素焼きの壺がひとつ置いてある。「ご当地の土」と札がかかっていた。よそから来た者は、この町になじめるようにと、厄よけに、その土をひとつまみ握るならわしだ。カジも、来た年に握った。ありがたい、地元の土である。

そこへ、からんと戸が開いた。

入ってきたのは権田だった。三代会の会長で、町いちばんの古株を自任している。ふんぞり返って椅子にすわり、「いつもの」とだけ言った。

トメは、権田の白髪を、ちょきちょきと切りはじめた。

椅子の下に、また砂が落ちる。青みがかった、細かい砂だ。それもまた、この町のどこにもない色だった。会長の、生まれた星の砂である。カジの金色とは、まるでちがう遠い色をしていた。

トメは、ちりとりを出した。カジの金の砂と、権田の青い砂を、いっしょくたにすくい上げる。そうして、だまって店先へ出ていった。

二人ぶんの砂を、あの「ご当地の土」の壺に、ざらりと足す。

壺は、今日も少しだけ、かさを増した。

四十年、五十年。切られた髪から落ちてきた、遠い星々の砂。それが積もりに積もって、この町自慢の「地元の土」になっていたのだった。

カジは、鏡の中で、ぽかんと口を開けていた。権田は、それにも気づかず、よその砂をぱらぱら落としながら、いかにも地元の顔で、あごをそらしていた。