わたしは皿だ。まっ白で、まるくて、ずっといちばん下にいる。
上には皿が九枚。ぜんぶ、わたしの上に乗っている。
「重い。とにかく重い」と、わたしは毎日ぼやいた。「なんで、いつもわたしが下なんだ」
「そりゃあ、おまえがいちばん丈夫だからさ」と、すぐ上の皿が言う。「下は、丈夫なのがいる。名誉なことだよ」
「名誉なんかいらない。使ってほしいんだ」
台所では、皿は上から取る。だから使われるのは、いつもいちばん上の皿だ。あったかい料理をのせてもらって、「きれいなお皿」とほめられて、また上にもどる。
わたしは一度も、のせてもらったことがない。
「見てろよ。いつか、いちばん上に行ってやる」 「はいはい」 「そしたら、山ほど料理をのせてもらって、うんとほめられるんだ」 「はいはい。それまで、下でおとなしくな」
ある日、暗い箱に詰められた。がたがた、ごうごう、とずいぶん長く揺れて、どん、と静かになった。
ふたが開いた。
とたんに、上の九枚が、ふわり、と浮きあがった。
わたしも、浮いた。
「浮いた! 浮いたぞ! ついに、いちばん上だ!」わたしは大よろこびで、九枚の上へ抜けていった。「見ろ! これが、上ってやつだ! どうだ!」
ところが、へんだった。上へ行ったつもりが、まだ上がある。上も、下も、どこにもなくなっていた。わたしは、くるくると、その場で回るばかりだった。
まどの外で、星が光っていた。どうやらここは、宇宙のうんと高いところの食堂らしい。
「おっと、皿が逃げた」
大きな手が、ふわふわ泳ぐ皿を、つぎつぎつかまえていく。まっ先につかまったのは、まん中でくるくる回っていた、わたしだった。
「よし、いちばんは、おまえだ」
選ばれた! とうとう、いちばんに! わたしは、料理を待った。コックが、あついシチューを、わたしにかけた。
のらなかった。
シチューは、ぷかぷかと茶色い玉になって、わたしから離れ、泳いでいった。ここでは、料理も浮く。皿の上に、のってなんかくれない。
「あーあ。ここじゃ、皿はいらないんだよなあ」
コックは笑って、泳ぐシチューの玉を、口でぱくりと食べた。それから、まっ白なままのわたしを、まどぎわのフックに、ひょい、と掛けた。
わたしは今、この食堂でいちばん見晴らしのいい、まどぎわにいる。ぴかぴかで、まっ白で、なんにものっていない。
まわりでは、みんなが口を開けて、浮かぶごはんを追いかけている。だれも、皿のことなんか、見ていない。