カサ爺は、あと一年、この星のそばで静かに芋を食えれば、それでよかった。その黒い星は、とうに光の消えた燃えがらだ。まわりを小さな灯がひとつ、目で追えないほど速く回っている。何十年も、休まずに。
「ねえ、カサ爺。あの豆星、なんであんなに速く回るの?」
そばでマメが、暗い空を指さした。
「重いものほど、そばのものを放さないのさ」
カサ爺は、冷めた芋をかじって、とぼけた。ちなみにこの爺さんの昼飯は、いつも冷めた芋である。うまいのかどうかは、本人にもよく分からないらしい。
カサ爺は、燃えがら星の等級つけを、五十年やってきた。まだ光る星は「一級」。すっかり燃えつきたやつは「灰」。灰の判をおされた星は、無価値ということで、運び出しの列のいちばん後ろに回される。もっともこの町では、光らないものは、無いのと同じ扱いだった。
あの黒い星の欄には、五十年ぶん、カサ爺の「灰」の判がびっしり並んでいる。同じ判が、何百個。査定帳の判は、押すたびに少しずつかすれていく。だれも、中身なんて見やしない。
じつは、その黒い星が、町でいちばん重かった。光は消えても、重さは消えない。重いから、小さな灯を放さない。もし軽くなれば、灯はぷつりとひもを切られたように、暗い外へ飛んでいってしまう。カサ爺だけが、それを知っていた。
そしてもうひとつ。長い年月、自分の重さに押されて、あの星の灰は、奥のほうで固くかたまっていた。つめたく、するどく、光る石に。だれも掘りに来ない、宝の石に。
ある日、運び出しの頭が代わった。トガという、若い男だった。早口で帳面をめくっては、どうやらむだを見つけるのが得意らしい。
「カサ爺さん。この黒い星、五十年ぜんぶ『灰』って……ちゃんと中、調べたんすか?」
「調べたさ。灰は灰だ」
「いや、五十年いちども割ってないでしょ、これ。……あやしいなあ。爺さん、なんか隠してません? お宝とか」
トガは、にやりと笑った。その日のうちに、クルーを連れてくる。黒い星の肌を、がつんと一か所、割らせた。
かけらが、ぱっと光った。
つめたく、するどく、目がくらむほど。だれもが息をのんだ。灰なんかじゃない。宝の石だ。
「やっぱりだ! 爺さん、あんた……」
トガの声が、なんだかうわずった。もう頭の中は、石をぜんぶ運び出す算段でいっぱいなのだろう。クルーが、次々に星の肌をはがしにかかる。星の重さが、少しずつけずられていく。
そのときだった。
「あ……豆星が」
マメが、空を指して、小さく叫んだ。
速く回っていた小さな灯が、すうっと、ゆっくりになった。輪が、ふくらむ。星が軽くなったぶん、灯を引きとめる力が、ゆるんだのだ。灯は外へ、外へと、ふくらみながら遠のいていく。もうひとけずりで、ひもは切れる。二度と、戻らない。
トガの手が、止まった。
石はほしい。だが石を取るには、この重さを、ぜんぶ運び出すしかない。重さがなくなれば、五十年律儀に回ってきたあの灯は、暗い外へ、ひとりで消える。
だれも、その灯をはずした男には、なりたくなかった。
トガは、しばらく黒い星を見上げていた。それから、カサ爺の帳面を、だまって取る。あの星の欄の、何百個目かのとなりに、自分の手で書きつけた。
「灰。無価値」
「……戻せ。かけら、ぜんぶ、はめ直すんだ」
クルーが、けずったぶんを、しぶしぶ星へ戻していく。黒い星が、また、ずしりと重さを取りもどした。
暗い星のまわりを、小さな灯が、またもとの速さで、律儀に一周した。