宇宙ステーション「おおとり」の商店街に、引越屋が一軒だけ残っている。
真鍋というのが、そこの若いスタッフだ。まあ、スタッフというか、店長というか、要するにひとりで全部やっている。台車を押し、養生テープを貼り、ダンボールを積む。今月のノルマは十五件で、今日まで十二件。あと三件を月末までにこなせば、ボーナスが出る。
ふと真鍋が気になったのは、常連の福井さんの荷物だった。
福井さんは四十代の会社員で、ステーションの中層に住んでいたのが、半年前に中心部の七区へ引っ越した。そのときのダンボールは十一箱。で、今回また引っ越すという。七区から、さらに中心寄りの三区へ。
「荷物、これだけっすか」
真鍋はトラックの荷台を見た。ダンボールが四箱。前回の半分以下だ。
「ああ、えっと、持ち込みの上限がありまして」と福井さんは申し訳なさそうに言った。「三区は四箱までなんですよ。越えた分は、管理局に預けるか、処分するかで」
「前は十一箱あったのに」
「まあ、いろいろ、整理したっていうか。ガイドラインが変わるたびに、ちょっとずつ」
もっとも、福井さんはそれを不満とは思っていないらしい。むしろ「身軽になった」とどこか誇らしげで、真鍋にはなんだか不思議な感覚だった。中心部に住む人はだいたいそう言うのかもしれない。
ちなみに、ステーションの引越屋は全盛期には四軒あったらしい。外縁から中心部への引越ブームで、どこも忙しかった時期だ。ところが中心部ほど持ち込み規定が厳しいので、リピーターの荷物が回を重ねるごとに減っていく。荷物が減れば業者を頼む理由もなくなる。三軒が順に畳み、真鍋の店だけが残った。
翌日、また引越の電話が来た。
「あの、引越をお願いしたいんですけど」
「ありがとうございます。どちらからどちらへ?」
「二区から、外縁のE棟に」
真鍋は受話器を持ち直した。中心部から外縁に出る客なんて、初めてではないだろうか。
「荷物はどのくらいありますか」
「えっと……カバンひとつです」
「カバンひとつ」
「はい。でも、あっちに行ったら増えるって聞いたんで」
電話を切ったあと、真鍋は壁のノルマ表に一本線を足した。十三件。悪くない。
台車を押して出たが、今度の客には、貸す台車のほうが荷物より重かった。